Where the Sun Rises

あなたのことを覚えておくために

2023年『チョコレートドーナツ』レポ・感想まとめ②

はじめに

なんと、チョコドの感想をまとめきらないうちにディナーショーが始まって幕を下ろし、なんなら年が明けて自担が引退してしまいました。怒涛すぎる2023年末でしたね。

しかしチョコドのお話が途中のまま、DSの感想や引退お気持ちブログ()には進めませんのでこのまま続きを書きます。①に引き続き一個人のなんかごちゃごちゃいってるだけの感想です。中身のあるレポはそうありませんので悪しからず。

 

America the Beautiful

幕開き早々、美しい自由の女神が!初演時にはなかった演出、初日にはとっても驚きました。顔(というか頭)がとっても小さくて脚が長くて、ブロンドヘアが美しい女神。凛と立つその姿はほんの一瞬で見えなくなってしまうのに、なんて贅沢な東山紀之の使い方。

これはXにもポストしましたが、はけていく時もずっとトーチを掲げ続けたまま歩いていくのが見えて、板の上では当たり前なのかもしれないけれど、改めてプロ意識を感じました。

自由の女神アメリカという国の象徴的に美しく存在していて、曲調も明るい一方で、ネイティブ・アメリカンへの迫害がみてとれるのが苦しい。

 

客席から登場〜ルディの部屋

マルコがひとり待つアパートへ帰るルディ、なんと客席扉から登場します。これも初演時にはなかった演出。ひとりで虚しげにうつむき歩いてルディが印象に残っています。背中を丸めてるんでしょうが、それでも頭が小さく脚が長いのが隠しきれていない…超絶スタイルの持ち主。
部屋のドアを開けてマルコに接する時は、切り替えて明るく振舞おうとしているのがさらにつらい。そしてこの後マルコは再び家庭局へ連れていかれてしまいます。

 

キャリーとの諍い

再びマルコと暮らすために、ルディとポールは裁判所へ出向く日々。ルディはゲイバーのショーダンサーの仕事を辞める決意をする。いざそれを伝える時「(この仕事をしていると、親としての)評価が下がってしまうの」この言い方にルディの不器用さが滲み出ていたなと思う。自分たちの仕事のことを「評価が下がる」なんて言われたらキャリーみたいに激高したっておかしくはない。やがてキャリーはルディを抱きしめてくれますが、このシーンは本当にマイノリティの叫びが聞こえてきて苦しくなりました。

「(幸せそうな姿を)目の前にチラつかせて。私たちがどんな気持ちで見てたのか知ってるの?」
ルディはただ目の前のマルコを、ポールを愛していただけなんだけど、それが知らず知らずのうちにキャリーたちを傷つけていた。そんな残酷な事実をまざまざと感じさせられているルディとポールの表情が本当につらかった。

 

マルコの寝室〜ルディの悪夢

マルコに出会ってからはいつもまっすぐ突き進んできたルディが珍しく後ろ向きに、弱気になるところ。

「(ポールは)私に出会わなかったら、結婚していた時みたいに幸せに暮らせていたんじゃないかって…」というルディはきっと否定してほしいんだろうなって、わざとそういうこと言っちゃうんだろうなぁとか考えました。強く生きてるように見せてても本当は脆くて。でも、ポールにはその普段は隠してる無防備な部分も出せるような間柄になれたんだなぁって、ふたりの関係性に胸がじーんとなったな。

そしてポールはルディよりずっと若いけれど、とても包容力にあふれていました。ルディの生き方に感銘を受けて尊敬しているからこそ、言葉に説得力がある。ポールの言葉を聞いたルディの表情が柔らかくほぐれていくのが印象的でした。

「愛してるよ」「私もよ」というやりとりを経てポールがルディにキスする場面で、ポールがルディの顔にかかる髪を除けて頬に触れた時ルディが一瞬目を伏せていて…!安心しきった表情というのかな、なんでか分からないけどそれがすごく刺さったりしました。

ルディの悪夢の場面は初演と変わらず、穏やかな雰囲気から一気に不気味で怖い夢になってぞわーっとした。あとは、マルコの魔法のベッド(と勝手に呼んでる)の仕組みがなんとなくわかってきたので、ひたすら凝視してました。舞台装置を作る人って本当にすごいですね…

あと、大変しょうもないけど言わせていただくと、ルディにはズボン履いててほしかった…(初演は履いてたじゃん!)この後の電話のシーンとかも目のやり場に困り、自担に服着ててほしい派オタクの私は顔だけをずっと見てました。

 

裁判所にて

法廷での場面はどれも本当に心苦しくて…ランバート弁護士のあの嫌味ったらしい追い詰め方。

「普通と違うから、親になっちゃいけないの?私たちはただ家族のように暮らしたいだけよ!」(ニュアンス)とルディが叫び、ポールも我を忘れて大声でまくし立てるあたりは見ていてかなりしんどいものがありました。

 

Love Don't Live Here Anymore

かつての職場に戻ってきたルディにエミレオがかける言葉が、東山さんの引退を控えた状態で観ているからか、胸に刺さって仕方ありませんでした。「歌いたくて戻ってきたんだろう?あんたはあんたのままでいいんだよ」という台詞、曲解して申し訳ないのだけど、どうしても違うふうにもとらえてしまって。東山さんは東山さんのままでいてほしかった。ずっと。

歌うルディの姿は悲壮にあふれていて、でも歌声は力強くて。初演よりも心臓をぎゅっと掴まれるような迫り来る感じだった。

 

控訴裁判所〜マイヤーソン判事との対峙

控訴裁判所に少し遅れて現れたルディの「遅れてごめんなさい!ハリウッドクラブから車で送ってもらったんだけど、ハイウェイが渋滞してて…」という台詞。これからは大切な裁判だけど、ハリウッドクラブでの仕事が決まって本当に嬉しそうなのが、少し弾んだ声のトーンに現れていて愛おしかったですね…

裁判シーンははっきりいってとてもつらくて、目を逸らしたくなるほど。ウィルソンさんの「してやったり」な表情とか、マリアンナが死んだ目で発した一言だけで全てが決まってしまうところとか、終始飄々とした様子のウィズニング裁判長とか。

後にマイヤーソン判事が言う通り、「親には誰も勝てないの。世界中どの裁判でも同じ。あなたは生みの親ではありません」確かにそうなんだけどね。マルコのために最善を尽くしていたのはルディとポールなのに。まだ親になったことがない私が言うのもなんだけど、現代の「親ガチャ」とか「毒親」という概念についても考えてしまった。子供は親を選べない。

ルディがか細い声で「キング牧師は言ってた。人生で最も罪深いことは、正しいことだと知りつつ、そうしないこと」「私の声は、いつ届くのかしら」とマイヤーソン判事に問います。これにマイヤーソン判事が明確な答えを出さないまま、この場面が終わるのがまた、苦しさを増長させた気がした。

控訴裁判の前後だったと思いますが、ルディとの約束をずっと信じていたマルコがミルズ家庭局員に「ルディのことは忘れなさい!」と言い放たれるシーン。マルコは今までにないくらい抵抗しますが、ここのお芝居がトリプルキャストの三者三様で、時には感情が爆発して泣いてしまっていたり。何度観ても初めて観たときのようにつらくなりました。

 

ポールの語り〜I Shall Be Released

ポールが関係者へ宛てた手紙を読むように結末を語る場面。「凍死」という直接的なワード、初演にはなかったように思いますが、現実を改めて突きつけられて苦しくなった。この先何度裁判をしても、何がどうなってもルディとポールはマルコの笑顔を見ることができない。マルコはもう二度と帰ってこない。彼はルディがハリウッドクラブで歌うという夢を叶えた姿を見ることもできません。

この物語を通して私は「普通」ってなんだろうと考えるようになった。私は今までの人生「普通」になりたくて頑張ってきたところが結構あるので…「普通」の人も、そうでない人も、みんなが幸せになれる方法はないのかと。答えのない綺麗事かもしれないけれど、これからも考えます。

そして最後のルディの歌唱、これには心を打たれた。客席の至る所からすすり泣きが聞こえました。上から目線みたい+無粋で申し訳ないですが、東山さんはテクニック的に相当お歌を練習されたんだろうなと思った(もちろんこの曲に限りませんが)。その努力に魂がのって、人の心に響く歌ってこういう事なんだなと思わされました。東山さんの歌でこういう気持ちになるとは思わなかったです。いい意味で裏切られたな。

歌い終わったルディは舞台の奥の方、光の中へ消えていくのですが、私はその後ろ姿が本当に忘れられないです。これはルディというよりも「役者・東山紀之」への感情になっちゃうんですけど、あんなに「行かないで」と思ったことはなかった。ただ拍手して見送るしかできないんだけれど。

 

カーテンコール

実際ご覧になった方はお分かりになると思うのですが、高畑淳子さんのご挨拶から劇場全体の空気が一気に明るく変わるのが魔法みたいでよかったです。彼女の存在がこの舞台には必要不可欠だったと思う。

それから東山さんのお辞儀が、プリンセスみたいでした。最後までルディなのね…!!!
調べたらあの形のお辞儀を指す言葉に「カーテシー」というのがあるらしいです(ひとつ賢くなった!)。

カーテシー - Wikipedia

違うステージでは「帝王・東山紀之」に、かたやこの舞台ではまるでプリンセスのようなルディにもなれるあのひと、強すぎる。いいものを見せて頂きました。(あとでパンフを読んでいたら、宮本亜門さんから「ディズニープリンセスみたいに」と演技指導された場面があったようで。全てが繋がった感がありました)

カテコではその日のマルコ役さんが自由にはっちゃけていてとても可愛かったです。「ありがとうー!」と叫んでくれたり、ずっきゅん(?)ポーズしてくれたり。3人ともみんな大物スターの感がありました。そしてそれをカンパニーの皆さんが後ろで見守り、東山さんは時に仰け反って笑い…あたたかい空気が流れていてよかったな。

基本的に東山さんは周りをたてるスタイルで、岡本くんがわざわざ東山さんの背中を押して前に出してくれるほどでした。岡本くんナイス!

大千秋楽(だったと思う)では一歩前に出る時、オーケストラピットを潰して作ってあるスペースと元々の舞台の境目に少し段差?があったようなんですが、それをぴょんと飛び越えて前に出るさまが大変キュート。三方礼をしてくれたのですがその姿はルディから東山紀之さんになってました…

原作ものだからか、ご自身が置かれてる状況からか、どの回でもカテコでのご挨拶はなかった様子ですが、ポールの言葉を借りるなら、「ハッピーエンド」にするためにはかえってそれも必要な要素だったのかも。

 

おわりに

舞台の感想というかただの東山さんファンの振り返りになってしまいましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました。

東山さんが「最後の舞台」という覚悟をもって臨んだこの作品、劇場でしっかりと見届けることができて良かったです。9月の引退表明以降、一般販売で追いチケットもして、一つの作品をこんなに何度も観たのは初めてでした。1回1回が大切な思い出。

2階席で観た大阪公演で、満員総立ちの客席を見上げる東山さんの切れ長の瞳がキラキラしてたこと、忘れられない瞬間のひとつです。舞台に立つお仕事を選んでくれて、続けてくれたことの重みを感じた瞬間でもありました。なんか今でも思い出すと泣きそうになる。

ルディとの、東山さんとのお別れは「暫定的」と思っていてもいいかな。