Where the Sun Rises

あなたのことを覚えておくために

終わらない迷路

 

PLAYZONE 2002『愛史』フィナーレショー、東山紀之さんのソロ曲『迷路』。

 

すっかりこの曲の虜になって何度となくリピートしている今も、DVDで初めてそれを観た時の鮮明な衝撃が忘れられない。わたしの思い描いた、「こんな東山さんが見たかった」のかたまりだったから。

 

冷たく軋むベッドのMOONLIGHT

わたしも一応もう子供じゃないので、歌い出しのワンフレーズで大体どんな曲かは察したつもり。その上で、わたしはこれが好きになる、と直感したし、それは的中した。出口のない暗闇の中で孤独に苦しみもがく主人公の姿が浮かんできて、この曲を歌い踊る彼に重なった。

 

かなり安直な例え方をしてしまえば、22時とか23時、あるいは深夜の遅めの時間帯にやってる暗いドロドロしたドラマの主題歌みたいな曲だな、と思った。不倫とかしてそうな感じ。

サビの最初の言葉が悲観的なところに惹かれた。もう何もかもどうでもよくなっているかのような諦め。それでもきっと一度は愛を信じたんだろう。しかしそれは彼の幻想にすぎなかったのか、主人公は最後の最後まで孤独に苛まれたまま、この曲の終わりを迎える。この曲のあとに続く『Believe』という名の救いの手がなければ、私はこの曲がもたらすとんでもない絶望感から抜け出せないままになっていただろうと思う。

 

見覚えのあるコートのSILHOUETTE
ふりむいた街の幻想(うそ)

このフレーズでいつも思い出す曲がある。同じく彼のソロ曲、『ひとりぼっちのクリスマス』。

あなたに似たセーター
あなたに似た髪型
驚くピエロ それは僕のことなんだね

街中でふとしたきっかけから、もうそこにいないひとのことを思い出すのはつらい。空に流れていく雲を見つけては、追いかけて掴もうとするようなものだと思う。掴んだところで、それは消えてしまうのに。

 

わたしの好きなそのひとは尽く、ソロ曲の中で幸せになれない。"君"はいつも"僕"のそばにいないし、会えたとしてもそれは思い出や夢の中。

目を閉じた闇の中で 思い出のような君を見ている
『迷路』

I'm Alone 話したいけど
想い出にしか 君はいない
『君がいない』

教えてくれ 君の名前
めざめる前に 夢からさめる前に
『永遠の恋人』

My Love いつも夢の中では
あなたを腕に強く 抱きしめているはずなのに
ひとりぼっちのクリスマス

知れば知るほど、ハッピーエンドな曲が少ないことに驚く。アイドルがよく歌うような、いま目の前にいる君が愛おしくて仕方ないよ、みたいな曲は多分片手で数えられるくらい。正直、彼にハッピーエンドでない曲ばかりをあてた大人たちの気持ちはよくわかる。その切れ長の目の奥に憂いの色をにじませた彼には、まぶしい光に満ちた曲より、哀しい影のある曲を歌わせたいにきまってる。

そう考えると、『STRIPE BLUE』で彼が(ほぼ)固定センターに立ったのは少し特異なことだったのかもしれない。それはおそらくこの曲がシングル表題曲であるが故に、彼の憂いを帯びた一面よりも、爽やかでシュッとしたパブリックイメージにフォーカスした結果だと思う。それにしても、あのキラキラした夏曲を、アイドルスマイルを振りまかずして通常運転で歌えるのは凄くないか…? と、謎に感心してしまったりもする。

 

彼は、仮面を使い分けるのがうまいひとだと思う。いや、正確には、他人よりうまく使い分けざるをえないのかもしれないけれど。
『迷路』の冒頭にも、かの有名な『千年メドレー』の如く、かわるがわる仮面をつけかえるような演出がある。

あのひとの仮面の下はちゃんと、人間のかたちをしているだろうか。仮面が落とすその影は、孤独を隠してはいないだろうか。